整数の絶対値
ここでは、整数の絶対値について見ていきます。
整数の絶対値
ここまでで、整数の定義、加法・減法・乗法の定義、順序の定義を見てきました。これを踏まえ、整数の絶対値を定義します。
絶対値は高校までの数学でも出てきましたが、大学以降でも定義は同じです。
整数の絶対値
整数 $x$ に対して、 $$\begin{aligned} |x| = \begin{cases} x & ( x \geqq 0 ) \\ -x & ( x \lt 0 ) \end{cases} \end{aligned}$$と定義し、これを $x$ の絶対値とよぶ。
数直線上でいえば、原点からの距離ともいえます。高校までの数学ではそのように説明されることもあります。ただ、大学以降の数学では、上のような式による定義を行うのがほとんどでしょう。
整数 $a,b$ があった場合に、 $a$ と $b$ の差の大きさについて言いたいときがあります。そのような場合に、絶対値があれば、 $|b-a|$ と表すことができて便利です。
整数の絶対値の性質
以下では、整数の絶対値の性質を見ていきます。「整数の」とついていますが、今後定義する、有理数や実数でも成り立つ性質です。
整数の絶対値の非負性
$x\in \mathbb{Z}$ のとき、 $|x|\geqq 0$ である。
$x\geqq 0$ のときは $|x|=x$ なので、成り立ちます。 $x\lt 0$ の場合は、 $|x|=-x$ であり、整数の順序#逆元と順序より、 $x\lt 0$ のときは $-x\gt 0$ なので成り立ちます。よって、 $|x|\geqq 0$ となります。
整数の絶対値の非退化性
$x\in \mathbb{Z}$ とする。このとき、 $x=0$ と $|x|=0$ は同値である。
$x=0$ なら $|x|=x=0$ です。
また、 $x\ne 0$ ならば、 $x$ は正の整数か負の整数しかありません。つまり、 $x\gt 0$ または $x\lt 0$ となります。先ほど見た内容も使うと、どちらの場合でも、 $|x|\gt 0$ です。つまり、 $x\ne 0$ なら $|x|\ne 0$ です。以上から、 $x=0$ と $|x|=0$ は同値となります。
整数の絶対値の偶性
$x\in \mathbb{Z}$ とする。このとき、 $|-x|=|x|$
$x\gt 0$ ならば、 $|-x|=x$, $|x|=x$ です。
$x=0$ ならば、 $|-x|=0$, $|x|=0$ です。
$x\lt 0$ ならば、 $|-x|=-x$, $|x|=-x$ です。
よって、 $|-x|=|x|$ です。
これは、 $f(x)=|x|$ というように、絶対値を関数だと考えれば、この関数が偶関数であることを表している、と考えられます。
整数の絶対値の乗法性
$x,y\in \mathbb{Z}$ とする。このとき、 $|xy|=|x||y|$
$x=0$ または $y=0$ ならば、 $xy=0$ なので、 $|xy|=0$ です。また、このとき、 $|x|=0$ または $|y|=0$ となるので、 $|x||y|=0$ です。
これ以外の場合は、整数の簡約法則#整数の乗法と順序 や 整数の乗法の性質#整数の逆元と積を使って考えます。
$x\gt 0$ かつ $y\gt 0$ ならば、 $xy\gt 0$ なので、 $|xy|=xy$, $|x||y|=xy$ です。
$x\gt 0$ かつ $y\lt 0$ ならば、 $xy\lt 0$ なので、 $|xy|=-xy$, $|x||y|=x\cdot(-y)=-xy$ です。
$x\lt 0$ かつ $y\gt 0$ ならば、 $xy\lt 0$ なので、 $|xy|=-xy$, $|x||y|=(-x)\cdot y=-xy$ です。
$x\lt 0$ かつ $y\lt 0$ ならば、 $xy\gt 0$ なので、 $|xy|=xy$, $|x||y|=(-x)\cdot(-y)=xy$ です。
以上から、どのケースで考えても、 $|xy|=|x||y|$ が成り立ちます。
整数の絶対値の三角不等式
絶対値の性質の中で、三角不等式が成り立つことはとても重要です。これを示す前に、 $x\leqq |x|$ が成り立つことを示しておきます。
$x\geqq 0$ なら $|x|=x$ です。また、 $x\lt 0$ なら $|x|=-x\gt 0 \gt x$ となります。
いずれにしても、 $|x|\geqq x$ なので、成り立ちます。
これを利用して、三角不等式を示しましょう。
整数の絶対値の三角不等式
$x,y\in \mathbb{Z}$ とする。このとき、以下が成り立つ。
- (1) $|x+y|\leqq |x|+|y|$
- (2) $|x-y|\leqq |x|+|y|$
- (3) $|x|-|y|\leqq |x+y|$
- (4) $|x|-|y|\leqq |x-y|$
まず、(1)を、場合分けをして考えます。
$|x+y|\geqq 0$ なら $|x+y|=x+y$ です。先ほど見たように $x\leqq |x|$ だから\[ x+y\leqq |x|+|y| \]となります。
$|x+y|\lt 0$ なら $|x+y|=-(x+y)=(-x)+(-y)$ です。さらに、先ほど示したことから\[ (-x)+(-y)\leqq |-x|+|-y|=|x|+|y| \]となります。
以上から、\[ |x+y|\leqq |x|+|y| \]が示せました。
$|x+y|\leqq |x|+|y|$ は、 $x,y$ が整数なら何でもいいので、 $y$ のところを $-y$ としてみましょう。そうすると\[ |x-y|\leqq |x|+|-y|=|x|+|y| \]となり、(2)が示せます。
この $x,y$ は整数なら何でもいいので、 $x$ を $x+y$ に変えてみると、 $|(x+y)-y|\leqq |x+y|+|y|$ となります。両辺から $|y|$ を引けば、\[ |x|-|y|\leqq |x+y| \]となり、(3)が成り立つことがわかります。
(3)の $x,y$ は整数なら何でもいいので、 $y$ を $-y$ に変えると、\[ |x|-|y|\leqq |x-y| \]となり、(4)が成り立つことがわかります。
整数の絶対値をはずす
計算をする上では、絶対値をはずして考えたくなることもできます。こうした場合に使える性質を最後に見ておきましょう。
$|x|=a$ について考えてみましょう。
$|x|\geqq 0$ なので、 $a\lt 0$ の場合は、 $|x|=a$ となる $x$ はありません。 $a=0$ なら、先ほど見た通り(非退化性)、 $|x|=a$ となる $x$ は $0$ しかありません。
$a\gt 0$ のときは、 $x\geqq 0$ とすると $|x|=x$ なので $x=a$ となります。 $x\lt 0$ とすると $|x|=-x$ なので、 $x=-a$ となります。以上から、 $x=a$ または $x=-a$ となります。まとめて、 $x=\pm a$ とかきます。
こうして、場合分けをすることで絶対値をはずすことができます。
等式ではなく、不等式の場合も考えてみましょう。
$|x|\gt a$ について考えてみます。
$x\geqq 0$ のときは $|x|=x$ なので、この不等式は $x\gt a$ となります。 $x\lt 0$ のときは $|x|=-x$ なので、この不等式は $-x\gt a$ 、つまり、 $x\lt -a$ となります。よって、 $x\gt a$ または $x\lt -a$ となります。(特に、 $a$ が負の場合は、この不等式はつねに成り立ちます)
次に、 $|x|\lt a$ について考えましょう。 $|x|\geqq 0$ なので、 $a$ が負なら、成り立つことはありません。 $a=0$ の場合も、成り立つことはありません。
$a\gt 0$ としましょう。 $x\geqq 0$ のときは $|x|=x$ なので、この不等式は $x\lt a$ となります。場合分けの条件とも合わせると、 $0\leqq x\lt a$ となります。 $x\lt 0$ のときは $|x|=-x$ なので、この不等式は $-x\lt a$ 、つまり、 $x\gt -a$ となります。場合分けの条件とも合わせると、 $-a\lt x\lt 0$ となります。以上より、 $-a\lt x \lt a$ となります。
このように、 $a$ が正の場合、
- $|x|=a$ ならば、 $x=\pm a$
- $|x|\gt a$ ならば、 $x\gt a$ または $x\lt -a$
- $|x|\lt a$ ならば、 $-a\lt x\lt a$
となることは、今後もよく使います。
例えば、 $|x-2|\leqq 3$ なら、 $-3\leqq x-2\leqq 3$ であり、 $2$ を足して $-1\leqq x\leqq 5$ と計算できます。
おわりに
ここでは、整数の絶対値について見てきました。
ここまでで、整数の定義やいろんな演算の定義を見てきました。次は、有理数の定義について考えていきます。その際、ここまで見た整数の構成とすごく似ていると感じることでしょう。