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自然数と簡約法則

ここでは、自然数の加法や乗法において、簡約法則が成り立つことを示していきます。

自然数の加法と簡約法則

自然数の加法の簡約法則は、自然数の加法#簡約法則ですでに見ました。

自然数の加法の簡約法則(等式)

任意の $x,y,z\in \mathbb{N}$ に対し、 $x+z=y+z$ ならば $x=y$ が成り立つ。

これは「等しい」場合ですが、「より小さい」や「以上」の場合でも成り立ちます。

自然数の加法の簡約法則(不等式)

任意の $x,y,z\in \mathbb{N}$ に対し、 $x+z\lt y+z$ ならば $x\lt y$ が成り立つ。

これを示してみます。

$x+z\lt y+z$ ならば、 $0$ でない自然数 $a$ を使って\[ x+z+a=y+z \]とできます(参考:自然数の順序)。結合法則と交換法則から\[ x+a+z=y+z \]とでき、「等しい」場合の簡約法則から\[ x+a=y \]となります。 $a\ne 0$ なので、 $x\lt y$ となります。

なお、 $x\lt y$ ならば $x+z\lt y+z$ も成り立つので、 $x\lt y$ と $x+z\lt y+z$ は同値です。他も同様にして
 $x\lt y$ と $x+z\lt y+z$ は同値
 $x= y$ と $x+z= y+z$ は同値
 $x\gt y$ と $x+z\gt y+z$ は同値
が成り立つことが示せます。

自然数の乗法の簡約法則その1

乗法でも簡約法則が成り立つので示しておきましょう。まずは、「等しい」場合を示します。少しだけ準備してから本題に入ります。

定理 (積が0ならどちらかは0)

$x,y\in\mathbb{N}$ が $xy=0$ を満たすとき、 $x,y$ の少なくとも一方は $0$ である。

背理法を使います。

もし $x,y$ がどちらも $0$ ではないとすると、 $u^{+}=x$, $v^{+}=y$ を満たす $u,v\in\mathbb{N}$ が存在します(参考:自然数の定義#自然数の性質の後半)。このとき、
 $xy$
 $=u^{+}v^{+}$
 $=u^{+}v +u^{+}$ (乗法の定義より)
 $=u^{+}v +x$
であり、 $x\ne 0$ なので、 $u^{+}v +x\ne 0$ だから $xy\ne 0$ となります。しかし、これは $xy=0$ に矛盾していまいます。よって、 $x,y$ の少なくとも一方は $0$ となります。


自然数の乗法の簡約法則(等式)

$x,y,z\in\mathbb{N}$ で、 $z\ne 0$ のとき、 $xz=yz$ ならば $x=y$ が成り立つ。

$x\lt y$ とすると、 $x+a=y$ を満たす $0$ でない自然数 $a$ が存在します。このとき
 $yz$
 $=(x+a)z$
 $=xz+az$ (分配法則)
 $=yz+az$
となりますが、先ほど示したことの対偶から、 $a,z$ が $0$ でないなら $az$ も $0$ でないため、 $yz=yz+az$ となることはありません。そのため、 $x\lt y$ は成り立ちません。同様に $x\gt y$ も成り立たないので、 $x=y$ となります。

これで証明終わりです。


準備として「 $xy=0$ なら少なくともどちらかは $0$ 」を示しましたが、これはこれで大事です。これは、今まで自然に成り立つものだと思って使ってきたかもしれませんが、今後は成り立たない世界にも触れます。例えば、行列の世界(線形代数学で学びます)ではこれは成り立ちません。この性質は、自然数(や整数、実数など)の大事な性質です。

また、加法のときと同じ注意ですが、現時点では、簡約法則は「 $xz=yz$ なら $z$ で割っていい」という意味ではありません。まだ割り算を定義していないからです。割り算を定義してはじめて、「 $z\ne 0$ なら割ってもいい」という意味で使うことができます。

$z\ne 0$ という条件は大事です。 $z=0$ のときは $xz=yz$ であっても $x=y$ とは限らないことはすぐにわかるでしょう。

自然数の乗法の簡約法則その2

今度は、「より小さい」場合を示します。

自然数の乗法の簡約法則(不等式)

$x,y,z\in\mathbb{N}$ で、 $z\ne 0$ のとき、 $xz\lt yz$ ならば $x\lt y$ が成り立つ。

これは、背理法で示しましょう。

自然数の順序で見たように、 $x\gt y$, $x=y$, $x\lt y$ のどれか1つだけが成り立つので、もし $x\geqq y$ であったとします。このとき、 $x=y+a$ となる自然数 $a$ が存在します。

そうすると、
 $xz$
 $=(y+a)z$
 $=yz+az$ (分配法則)
となりますが、 $az$ は自然数なので、 $xz\geqq yz$ となり、 $xz\lt yz$ と矛盾します。以上から、 $x\lt y$ となることがわかります。


なお、逆に、 $x,y,z\in\mathbb{N}$ で、 $z\ne 0$ のとき、 $x\lt y$ ならば $xz\lt yz$ も成り立ちます。これも示してみます。

$x\lt y$ なら、 $y=x+b$ となる $0$ でない自然数 $b$ が存在します。

そのため、
 $yz$
 $=(x+b)z$
 $=xz+bz$
となります。ここで、 $b$ も $z$ も $0$ でないので、先ほど見たように、 $bz$ も $0$ ではありません。こうして、 $xz\lt yz$ が示せました。

他も同様にすれば、 $x,y,z\in \mathbb{N}$ で、 $z$ が $0$ でないとき、
 $x\lt y$ と $xz\lt yz$ は同値
 $x= y$ と $xz= yz$ は同値
 $x\gt y$ と $xz\gt yz$ は同値
となることが示せます。

おわりに

ここでは、自然数の加法や乗法に関する、簡約法則を見てきました。両辺から $+z$ を取り除いたり、 $\times z$ を取り除いても、等しい、大きい、小さい、という関係は保存されます( $\times z$ の場合は $z\ne 0$ の場合のみを考えます)。これらは、計算をするうえでも重要な性質です。

自然数の定義に関する内容は一旦ここまでです。自然数の定義から、加法、順序、乗法についても定義してきました。今後は、これを用いて、数の範囲を拡張していきます。次は整数の定義を見ていくことにします。