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有理数の絶対値

ここでは、有理数の絶対値について見ていきます。

有理数の絶対値

前回までで、有理数の定義、加法・減法・乗法・除法の定義、順序の定義を見てきました。また、それぞれの性質も見てきました。

ここでは、整数のときに見た絶対値を、有理数でも考えてみます。

整数の絶対値は、 $0$ 以上ならそのまま、負ならマイナスをつける、というものでした。有理数の絶対値も同様に定義します。

有理数の絶対値

有理数 $x$ に対して、 \begin{eqnarray} |x| = \begin{cases} x & ( x \geqq 0 ) \\ -x & ( x \lt 0 ) \end{cases} \end{eqnarray}と定義し、これを $x$ の絶対値とよぶ。

整数のときと同じ式です。

なお、有理数の絶対値を定義する方法は、別の方法もあります。

そもそも、有理数を定義するときには、整数 $a\in\mathbb{Z}$ と $0$ 以外の整数 $b\in\mathbb{Z}^*$ を使って、ペア $(a,b)$ を考えたのでした。このとき、 $[(a,b)]$ を次のように定義してグループ分けをしていきました。

$[(a,b)] = \lbrace (c,d)\mid ad=cb \rbrace$

こうして作られる $\lbrace [(a,b)] \rbrace$ を有理数の集合といい、各元を有理数と呼ぶのでした。

これをベースにすると、有理数の絶対値を $[(|a|,|b|)]$ と定義することもできます。 $|a|$, $|b|$ は整数の絶対値であり、整数の絶対値ですでに定義しています。

こちらの定義のほうが、有理数の定義とマッチしているように感じるかもしれません。ただ、 $[(|a|,|b|)]$ を、有理数の除法にそって分数で表せば、\[ \frac{|a|}{|b|} \]となります。あとで示すように、これは上の定義と同じ内容なので、このシリーズでは、はじめに紹介した定義を採用しています。

なお、有理数の絶対値を $[(|a|,|b|)]$ で定義する場合、well-defined であること(代表元によらずに値が決まるかどうか)も示す必要があります。

有理数の絶対値の性質

整数の絶対値の性質で見た内容のほとんどが、有理数の絶対値でも成り立ちます。

有理数の絶対値の性質

$x,y\in \mathbb{Q}$ のとき、以下が成り立つ。

(1) $|x|\geqq 0$
(2) $x=0$ と $|x|=0$ は同値
(3) $|-x|=|x|$
(4) $|xy|=|x||y|$
(5) $y\ne 0$ のとき、 $\left|\dfrac{x}{y}\right|=\dfrac{|x|}{|y|}$

(1)~(4)までは、整数の絶対値でも成り立つものです。有理数の絶対値でも成り立つことは、整数のときと同じようにして示せます。

例えば、(4)を示してみましょう。場合分けをして示していきます。

$x=0$ や $y=0$ の場合、 $xy=0$ なので、 $|xy|=0$ です(参考:ゼロとの積)。また、 $|x|$, $|y|$ の少なくとも一方が $0$ なので、 $|x||y|=0$ となるから、このときは成り立ちます。

$x\ne 0$ かつ $y\ne 0$ のときは、それぞれが正の有理数か負の有理数かで場合分けをして示していきます。

$x\gt 0$ かつ $y\gt 0$ のとき、 $xy\gt 0$ です(参考:有理数の乗法と簡約法則の最後の部分)。よって、 $|xy|=xy$ です。 $|x||y|=xy$ なので、両辺は等しいです。

$x\gt 0$ かつ $y\lt 0$ のときは、 $xy\lt 0$ です(参考:有理数の乗法と簡約法則の最後の部分)。よって、 $|xy|=-xy$ です。 $|x|=x$, $|y|=-y$ なので、 $|x||y|=x(-y)=-xy$ です(参考:有理数の分配法則の後半部分)。よって、このときも両辺は等しいです。

$x\lt 0$ のときも、同じリンク先の内容を踏まえれば、 $y\gt 0$ のときは $|xy|=-xy=|x||y|$ であり、 $y\lt 0$ のときは $|xy|=xy=|x||y|$ となり、両辺が等しいことがわかります。

こうして、どのようなケースでも、 $|xy|=|x||y|$ となることが確かめられます。

(5)は、(4)を利用して示します。(4)の $x,y$ は有理数ならなんでもいいので、 $x$ を $\dfrac{x}{y}$ としてみます。すると左辺は\[ \left|\frac{x}{y}\cdot y\right|=|x| \]となります。よって、\[ |x|= \left|\dfrac{x}{y}\right|\cdot |y| \]が成り立ちます。両辺を $|y|$ で割れば\[ \left|\dfrac{x}{y}\right|=\dfrac{|x|}{|y|} \]となります。

先ほど、有理数の絶対値の定義の仕方を2つ紹介しました。2つ目は、 $[(|a|,|b|)]$ 、つまり、 $\dfrac{|a|}{|b|}$ で定義するものです。(5)の内容から、1つ目の定義でも2つ目の定義でも、同じ結果にたどりつくことがわかります。


有理数の絶対値は、三角不等式も成り立ちます。

有理数の絶対値の三角不等式

$x,y\in \mathbb{Q}$ とする。このとき、以下が成り立つ。

(1) $|x+y|\leqq |x|+|y|$
(2) $|x-y|\leqq |x|+|y|$
(3) $|x|-|y|\leqq |x+y|$
(4) $|x|-|y|\leqq |x-y|$

$|x|\geqq x$ を示した後に、場合分けをして(1)を示し、これを利用して(2)(3)(4)と示していきます。流れは、整数の絶対値のところで見た三角不等式のところと同じです。

有理数の絶対値をはずす

整数のときに見た「絶対値をはずす計算」は、有理数の世界でもよくやります。

特に、 $a$ が正の場合、

  • $|x|=a$ ならば $x=\pm a$
  • $|x|\gt a$ ならば $x\gt a$ または $x\lt -a$
  • $|x|\lt a$ ならば $-a\lt x\lt a$

となることは、今後よく使います。

例えば、 $x,y,a\in\mathbb{Q}$ で、 $a\gt 0$ のとき、 $|x-y|\leqq a$ を考えてみます。これは、 $-a\leqq x-y\leqq a$ であり、 $y$ を足して $y-a \leqq x\leqq y+a$ と計算できます。

おわりに

ここでは、有理数の絶対値について見てきました。有理数についてはここでおしまいです。次は、実数について見ていきます。