整数の順序
ここでは、整数の順序について見ていきます。
整数の順序
整数は自然数の世界を拡張したものと考えることができます。そのため、整数の加法や乗法を定義するときは、自然数の加法や乗法を拡張するように定義しました。整数の順序も同じように、自然数の順序の内容を拡張するように定義します。
自然数の順序で見たように、 $a,b$ が自然数のとき、 $a=b+n$ となる自然数 $n$ があれば $a\geqq b$ と書き、 $a+n=b$ となる自然数 $n$ があれば $a\leqq b$ と書くのでした。どんな自然数に対しても、少なくとも一方は成り立ちます。
これを見て整数の順序を定義するのであれば、今までに使ってきた順序とも合わせると、次のようにするのが自然でしょう。
$x,y$ が整数のとき、
- $x=y+n$ となる自然数 $n$ があれば $x\geqq y$ とする。
- $x+n=y$ となる自然数 $n$ があれば $x\leqq y$ とする。
こう定義しようとした場合、比較できないケースがないか、確認しておく必要があるでしょう。つまり、どんな自然数 $n$ を使っても、 $x=y+n$ にならないし $x+n=y$ にもならない、こういうケースがないのか、ということです。
すでに、整数の加法には逆元があることはわかっている(参考:整数の加法の性質#逆元の存在と一意性)ので、 $n$ としてありえるのは、 $y-x$ か $x-y$ です。この両方がどちらも自然数ではないとすると矛盾することを示せばいいです。
自然数ではなくても、どちらも整数であることはわかっています。そして、整数は、正の整数、 $0$ 、負の整数の3種類に分けられることもわかっています。つまり、どちらも自然数でないということは、 $y-x$ も $x-y$ も負の整数である、ということです。
ここで、整数の減法#負の整数で見た通り、負の整数同士の足し算は負の整数となります。なので、 $(y-x)+(x-y)$ は負の整数となりますが、計算するとこれは $0$ なので、矛盾します。
以上から、 $y-x$ か $x-y$ の少なくとも一方は自然数であり、どちらかのケースになることがわかります。なので、整数を2つ持ってくれば、必ず順序を決めることができます。
整数の順序
整数 $x,y$ に対し、自然数 $n$ があって、 $x=y+n$ と書けるとき、 $x\geqq y$ や $y\leqq x$ と表し、「 $x$ は $y$ 以上である」という。
整数 $x,y$ に対し、自然数 $n$ があって、 $x+n=y$ と書けるとき、 $x\leqq y$ や $y\geqq x$ と表し、「 $x$ は $y$ 以下である」という。
また、 $x\ne y$ のときに、 $x\gt y$ や $x\lt y$ と書くことなども、自然数と同じように定めます。
これをもとにすれば、正の整数、 $0$ 、負の整数の順序は次のように書けます。
まず、 $x$ が正の整数とすると、これは $0$ でない自然数ともいえるので、 $x=0+x$ が成り立ちます。よって、\[ x\gt 0 \]が成り立ちます。
一方、 $x$ が負の整数とします。このとき、 $0$ でない自然数 $n$ を使って、 $x=-n$ と書けます(整数加法の性質)。このとき、 $x+n=0$ が成り立つので、\[ x\lt 0 \]が成り立ちます。
整数は、正の整数、 $0$ 、負の整数と分けられますが、これらは、それぞれ、 $0$ より大きい整数、 $0$ と等しい整数、 $0$ より小さい整数とわけることができる、ということです。
整数の順序の性質
自然数で成り立った順序の性質は、整数でも同じように成り立ちます。このことを見ていきましょう。
整数の順序の反射律
任意の整数 $x\in \mathbb{Z}$ に対して、 $x\leqq x$ が成り立つ。
$x+0=x$ なので、「以下」の定義から、 $x\leqq x$ となります。
整数の順序の推移律
任意の整数 $x,y,z\in \mathbb{Z}$ に対して、 $x\leqq y$ かつ $y\leqq z$ ならば $x\leqq z$ が成り立つ。
$x\leqq y$ なので、 $x+a=y$ となる自然数 $a$ が存在します。 $y\leqq z$ なので、 $y+b=z$ となる自然数 $b$ が存在します。
これより $$\begin{aligned} z &= y+b \\[5pt] &= (x+a)+b \\[5pt] &= x+(a+b) \\[5pt] \end{aligned}$$であり、 $a+b$ は自然数だから、 $x\leqq z$ が成り立ちます。
整数の順序の反対称律
任意の整数 $x,y\in \mathbb{Z}$ に対して、 $x\leqq y$ かつ $y\leqq x$ ならば $x=y$ が成り立つ。
$x\leqq y$ なので、 $x+a=y$ となる自然数 $a$ が存在します。 $y\leqq x$ なので、 $y+b=x$ となる自然数 $b$ が存在します。
これより $$\begin{aligned} x &= y+b \\[5pt] &= (x+a)+b \\[5pt] &= x+(a+b) \\[5pt] \end{aligned}$$です。 $-x$ を両辺に加えると $a+b=0$ であることがわかります。どちらも $0$ でないなら、どちらも正の整数となり、和も正の整数となるから $0$ になりません。なので、少なくとも片方は $0$ であり、 $a+b=0$ だから、残りの方も $0$ となります。
$a=b=0$ となるので、 $x=y+b=y+0=y$ より、 $x=y$ が示せます。
逆元と順序
逆元と順序についての性質を示したいのですが、そのために、次のことを示しておきましょう。
整数の和と順序
整数 $x,y,z$ について、次が成り立つ。
$x\leqq y$ $\iff$ $x+z\leqq y+z$
$x\leqq y$ のとき、ある自然数 $n$ を使って $x+n=y$ と書けます。両辺に $z$ を足せば、\[ (x+z)+n=(y+z) \]が成り立ちます。なので、 $x+z\leqq y+z$ が成り立ちます。
逆に、 $x+z\leqq y+z$ とします。このとき、ある自然数 $n$ を使って $(x+z)+n=(y+z)$ と書けます。両辺に $-z$ を足せば、\[ x+n=y \]となるので、 $x\leqq y$ が成り立ちます。
これより、マイナスをつけると順序が変わる、ということがわかります。
逆元と順序
整数 $x,y$ について、次が成り立つ。
$x\leqq y$ $\iff$ $-y \leqq -x$
$x\leqq y$ とします。両辺に $(-x)+(-y)$ を足すと、左辺は $x+(-x)+(-y)=-y$ となり、右辺は $y+(-x)+(-y)=-x$ となるので、\[ -y\leqq -x \]が成り立ちます。
逆に、 $-y\leqq -x$ とするとき、両辺に $x+y$ を足すと、\[ x\leqq y \]が成り立つことがわかります。
マイナスをつけると、順序が逆転します。
上の式で、 $y=0$ とすれば、 $x\leqq 0$ と $-x\geqq 0$ が同値になることなどもわかります。
最大元と最小元
自然数の場合、空でない $\mathbb{N}$ の部分集合 $S$ には、最小元が存在しました(参考:自然数の整列性と数学的帰納法)。つまり、 $m\in S$ で、どの $S$ の元も $m$ 以上になるような $m$ が存在する、という性質があります。これを整列性というのでした。
整数の場合でも似たような性質があります。
最大元と最小元
$S$ を空でない $\mathbb{Z}$ の部分集合とする。
(a) ある $x\in S$ があって、 $s\in S$ ならば $s\lt x$ が成り立っているとする。このとき、 $S$ には最大元がある。
(b) ある $x\in S$ があって、 $s\in S$ ならば $s\gt x$ が成り立っているとする。このとき、 $S$ には最小元がある。
上に限界があったら、最大の元もある、という内容ですが、当たり前に見える内容も、自然数の整列性から示せます。
(a)を考えます。 $T=\lbrace x-s\mid s\in S \rbrace$ という集合を考えましょう。 $x\gt s$ なので、 $x-s\gt 0$ だから、 $x-s$ は自然数です。つまり、 $T$ は $\mathbb{N}$ の部分集合であることがわかります。
$\mathbb{N}$ の整列性から、 $T$ には最小元 $t$ が存在します。これより、任意の $s\in S$ に対して\[ t\leqq x-s \]が成り立ちます。また、 $t$ は $T$ の元だから、ある $m\in S$ を使って、 $t=x-m$ と表すことができるので、\[ x-m\leqq x-s \]が成り立ちます。両辺に $-x$ を足した後に、マイナスをつければ(逆元と順序より)、\[ s\leqq m \]が任意の $s\in S$ について成り立つことがわかります。つまり、この $m$ が最大元です。
(b)についても、 $T=\lbrace s-x\mid s\in S \rbrace$ という集合を考えれば、同じように示すことができます。
おわりに
ここでは、整数の順序を定義し、順序の性質を見ました。マイナスをつけると不等号の向きが逆転する、ということも見ました。高校までの数学でも見た内容ですね。
また、空集合でなく、どの元もある値より小さいことがわかっていれば最大元があり、どの元もある値より大きいことがわかっていれば最小元がある、ということも見ました。これは、将来見る有理数や実数とは異なる性質です。実数のところでまたこの話題が出てくるでしょう。